小学生バレーの特別ルール「フリーポジション制」を考察する#1

バレー

日本バレーボールのグラスルーツでもある小学生カテゴリ。そこでの特別ルール、フリーポジション制

みなさんはご存知でしょうか。

本記事ではフリーポジション制について考えていきたいと思います。

フリーポジション制とは

フリーポジション制とは、通常ルールであるローテーション(サイドアウトを1つ取った時にポジションを1つ時計回りに移動すること)が適用されない、名前のとおり自由にポジションを決めることができる(前衛・後衛の概念もない)小学生カテゴリのみに適用される特別ルールのことです。

公式戦では1992年から採用されており、今もなお日本の小学生カテゴリでは一般的なルールとなっています。

また、フリーポジション制適用前にはバックセンター固定制(後衛専門のプレーヤーを配置することができる)という特別ルールが設けられており、全日本バレーボール小学生大会の第1回大会である1981年から採用されていました。

また、実際フリーポジション制が採用された1992年、全日本バレーボール小学生大会女子決勝戦の映像を発見しましたのでご興味のある方はぜひご覧ください。解説者によるフリーポジション制についてのコメントも非常に興味深いと感じたため、要約して下記に記載しておきます。

【解説者コメント要約】
A:背の高い子も低い子もバレーボールをそれぞれ、スパイクであるいはレシーブで存分にエンジョイしてもらうために活躍の場を与えようということでローテーションをやめた

A:今年やってみて素晴らしい成果を上げている。

B:チームを見てみると前衛の3名は非常に背が高い。後衛の3名は小柄

A:後衛のプレーヤーはうんと小さい。でも、全国大会の決勝戦で頂点に争う試合に出られる。これはフリーポジション制でないとできないこと

A:バレーボールをみんなが楽しめるスポーツにしたい。ライオンカップ(小学生全国大会の過去の名称)だけはみんなのためのバレーボール。これは素晴らしいことだったと思います。子どもが喜んでいます

フリーポジション制の目的

それでは、フリーポジション制の小学生カテゴリ導入にはどのような目的があったのでしょうか。

フリーポジション制について考える前には、やはりバックセンター固定制の導入にまで遡る必要があるのかもしれません。バックセンター固定制のバックセンターのみポジションを固定し、他の5名はローテーションをするというルールは、身長の低いプレーヤーでも活躍できるチャンスをつくろうという意図がありました。現在のリベロ制度の原型とも呼べるルールだったのかもしれません。

では、フリーポジション制についてはどうでしょうか。

フリーポジション制は、ミュンヘンオリンピックで金メダルを獲得したバレーボール日本代表の男子監督でもあった松平康隆によって提唱されたもので、バックセンター固定制と同じ発想、身長の低いプレーヤーでも活躍できるチャンスを作ろうという目的から生まれたものだと考えられます。上記で紹介した解説者のコメントからも、さらに身長の低いプレーヤーの活躍の場を拡げようという意図が伝わってきます(バックセンター固定制では1名のプレーヤーのみが前衛でのプレーを免除されるだけだが、フリーポジション制では一般的には3名のプレーヤーが前衛でのプレーを免除される)。

バックセンター固定制の採用期間が10年であったのに対し、フリーポジション制は現在時点(2024年)でも継続して採用されており、30年以上もの歴史があります

フリーポジション制におけるメリット

フリーポジション制が、これほどまで長い期間採用されてきた理由は一体どこにあるのでしょうか。

おそらく、その理由はフリーポジション制におけるメリットについて考えてみることから見えてくるのではないでしょうか。以下に私が考え得るメリットについて箇条書きにしてみました。

【フリーポジション制におけるメリット】

▶︎コーチ目線
・短期間で効率的にチーム強化できる
 >ポジション固定が可能となる
 >プレー分業がしやすくなる
 >それぞれ得意なプレーを中心に指導できる
 >ワンシステムだけトレーニングすればよい
 >パターンでトレーニングできる
 >ローテーションルールを教えなくてもよい

▶︎プレーヤー目線
・身体的特性や得意なプレーを活かしてプレーすることができる
 >特定のポジションだけプレーできればよい
 >特定のプレーだけできればよい
 >得意なプレーを中心に向上させることができる
 >ワンシステムだけ覚えればよい
 >パターントレーニングで短期的に上手くなれる
 >ローテーションルールを知らなくてもよい

私なりにメリットとして考え得るものを整理してみましたが、その過程でそれぞれの内容すべてに共通することがあると気付きました。一言で言えば「最短で結果や成果を感じやすく、かつ結果や成果が出やすい」ということです。

小学生カテゴリは、日本バレーボール界における実質的グラスルーツとしての役割を担っています。多くのプレーヤーが初めてバレーボールを始めるカテゴリだと言えます。

そして、実際のそれぞれのチーム状況をよく観察してみれば分かってくることがあります。

バレーボール競技をスタートする年齢はバラバラで、競技開始時点における運動経験の多寡や運動能力の高低もバラバラです。さらには、年に一回は全国大会が開催され、年中通じて多くの公式戦が開催されています。

このような多くの制約がある中だと「最短で結果や成果を感じやすく、かつ結果や成果が出やすい」というメリットのあるフリーポジション制はある意味とても機能的であるというのが現実だと言えるのだと思います。

ただ、先述した通り小学生カテゴリは、日本のバレーボール界において極めて重要な位置付けとなるグラスルーツの役割を果たすべき存在です未来の日本代表選手や未来のバレーボール界をリードしていくコーチやリーダーたちを育んでいくベースとなる重要な存在です

「最短で結果や成果を感じやすく、かつ成果が出やすい」という点だけに囚われ、プレーヤーの長期的な視点からの結果や成果について何も考えられていないのが現状だとすればそこには非常に問題があると思います。

(続く)

Saika Yuta
written by

1987年生まれ。小学1年でバレーを始める。小·中学校時には計4回全国大会に出場。中学3年時は香川県代表の主将としてJOC出場。高校では、進学校にて春高出場を目指す。大学進学を機にバレーから離れるが高校教員となりバレー指導に没頭するように。そんな日々の中、バレー選手になるという夢を諦めきれていない自分に気がつき、教員を辞めバレー選手となるためドイツ·ベルリンへ。生活基盤が整い始めた矢先、息子が大怪我をして急遽帰国。息子の回復後は北海道へ移住しクラブを設立し、コーチングを生業とするように。その後、縁あって仙台市を拠点に活動するリガーレ仙台(当時:V2リーグ)のヘッドコーチに就任。ワンシーズン指揮を執る。2024年7月より、シンガポールの育成クラブにてコーチング活動に従事。

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