スパイクスイング3分類#5.fin.

アタック

ここまで、スパイクスイング3分類について長々と解説を加えてきたが本記事が最後となるので最後までお付き合いいただければ幸いである。本記事では最も合理的なスイングについて私の考えについて忖度なく書きたいと思う。様々なご意見があると思うが、本記事が読者の皆様の議論のタネとなれば幸いである

最も合理的なスパイクスイングとは

繰り返しになるが、ここからは個人的な考えが中心となることをご理解いただきたい。

スパイクスイング3分類については様々な書籍や動画などで紹介されており、その解釈や解説内容にもかなりのばらつきがあると感じている。また、それらの多くはどのスイングを推奨するのかといった点については詳しく解説されていないと感じている。おそらくその理由は、プレーヤーの年齢や性別、経験値、身体能力、運動経験、だれに指導を受けたかなど、本当に多くの要因によってプレーヤーのスイングは決定されるという前提があるためだろう。

しかし、ここでは上記に挙げたような様々な要因は敢えて考慮せずにシンプルに最も合理的だと思えるスイングはどれになるのかということを考えていきたい

サーキュラー・アーム・スイングが最も合理的

スパイクスイングについては、高校生1年生の頃から深く考えるようになった。中学3年生時に初めて3分類の存在を知り、サーキュラー・アーム・スイングへの切り替えを行うべくトレーニングするようになったのがきっかけである。高校3年生で現役を引退してからも多くのバレーボーラーとスパイクスイングに関して議論をして、様々な考えも聞いてきた。日本語に訳されているバレーボール関連の書籍のほとんどをこれまで読んできたという自負もある(そもそもそれほどの冊数がないが)。

こうして個人的に学びを積み重ねてきた今、最も合理的だと考えられるスイング。それは、サーキュラー・アーム・スイングである。これが現段階における私なりの結論である。

まずはその結論に至った理由について簡潔にまとめているのでまずは確認いただきたい。

  1. 十分なテイクバックを短時間で完成できる
  2. 省エネルギーで大きなパワーを生み出せる
  3. 障害リスクが低い

十分なテイクバックを短時間で完成できる

サーキュラーは他のスイングと比較して、十分なテイクバックを短時間で完成することができる。そのため、セットされたボールが低くなったり、速くなったりしてしまうといった「ブレ」に対しても柔軟に対応することができる。それゆえ、テンポの速い攻撃に参加することが多いミドルブロッカーにとっても有効なスイングであると言える。

省エネルギーで大きなパワーを生み出せる

サーキュラーは他のスイングと比較して、省エネルギーで大きなパワーを生み出すことができる。これは、主たる体幹動作が回旋運動となり慣性モーメントが少ないためである。慣性モーメントが少ないということは身体的な負荷も小さいということになり、疲れにくいスイングだと言えるだろう。

障害リスクが低い

サーキュラーは他のスイングと比較して、障害リスクが低いと言える。前後屈主導ではなく回旋運動主導のスイングであることから、腰への負担は少なく腰の障害リスクを低くなる。また、回旋運動主導のスイングであることから、他のスイングよりも被りにくく、ゼロポジションでヒットしやすく肩の障害も生じにくい。また、良い状態でヒットすることさえできれば、前方方向に向かって両足着地することが可能となり、着地時における怪我のリスクを下げることもできる

各プレーヤーのスイング分類に関して思うこと

スイング分類に関する議論でよくあるのが「○○選手はボウ・アンド・アローだ。」「いや○○選手はサーキュラーだ。」といったものがある。互いの解釈や考えを理解し合おうと議論している間は良いが、次第に自分の正しさを証明するためのマウント合戦みたいになることがあるように思う。もし、そんな感じになっていたとすれば、それは些か不毛であるように思う

どのプレーヤーのスイングもスイング分類のグラデーションの中にあったりすることもある。また、セットされるボールのポジションや高さ、アプローチの距離や猶予時間などはゲームの中では常に流動的であり、これらの外部環境にアジャストしてプレーヤーはスパイクという選択肢を行使しているのが現実である(なんと難しいことをしているのだろうか)。あるスパイクはサーキュラー的であり、また別のスパイクではボウ・アンド・アロー的であるといったことも実際起こっているのだろうと思っている。調子がいいときはサーキュラー的だが、被ってスパイクが決まっていないときはボウ・アンド・アロー的みたいなこともありそうだ。だから、一つのプレーだけを見て「あのプレーヤーは○○スイングだ。」と言い切ってしまうのははちょっと違うのかもしれない。分類はあくまで参考にするのが賢明だろうと思う。

スパイクというスキル構造を解き明かす一つの鍵に

ここまでスパイクスイング3分類について徹底的に深掘りをしてきたが楽しんでいただけただろうか。

先述した通り、一つのプレーだけを見てそのプレーヤーのスイングを「これだ!」と分類することに対しては否定的である。しかし、スイングの分類やそれぞれのスイングの動作原理について深く理解しておくことはコーチにとってもプレーヤーにとっても極めて重要であると私は考えている。なぜなら、ここでの深い理解はスパイクという複雑なスキル構造を解き明かしてくれる一つの鍵となると信じているからである。理解できたからといって、一瞬でプレーヤーのスパイクスキルを向上させるためのコーチングができるわけでもないし、プレーヤーが自身のスパイクスキルを一気に向上させられるわけでもない。しかし、いつかここで理解し自分の頭で考えたことが血肉となり、あなたのバレーボールライフを豊かにしてくれると私は信じたい

参考文献

Saika Yuta
written by

1987年生まれ。小学1年でバレーを始める。小·中学校時には計4回全国大会に出場。中学3年時は香川県代表の主将としてJOC出場。高校では、進学校にて春高出場を目指す。大学進学を機にバレーから離れるが高校教員となりバレー指導に没頭するように。そんな日々の中、バレー選手になるという夢を諦めきれていない自分に気がつき、教員を辞めバレー選手となるためドイツ·ベルリンへ。生活基盤が整い始めた矢先、息子が大怪我をして急遽帰国。息子の回復後は北海道へ移住しクラブを設立し、コーチングを生業とするように。その後、縁あって仙台市を拠点に活動するリガーレ仙台(当時:V2リーグ)のヘッドコーチに就任。ワンシーズン指揮を執る。2024年7月より、シンガポールの育成クラブにてコーチング活動に従事。

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