Profile
Person who wrote this article

ライフ・ワークはバレーボール探求。本サイトでは、バレーボールに関する情報を発信しています。また、バレーボール・アカデミーの経営・コーチングをしています。

【資格】国際バレーボール連盟(FIVB)公認コーチ Level2/日本スポーツ協会 コーチ4/バルシューレジャパンC級指導者/中高教諭1種免許(英語)

Saika Yutaをフォローする

科学的根拠に基づくバレーボール・コーチングを実践する(運動学習理論)※永久保存版

科学的知見に基づいたコーチングを行うことの重要性は言うまでもない。

しかし、日々現場でコーチングをしているコーチたちが次のような質問を受けるとすれば、一体どんな反応を示すだろうか。

いつでも科学的な知見に基づいて練習を計画・実践し、プレーヤーへ問いかけ、フィードバックを行えているか?

躊躇なく「イエス」と言えるコーチは少ないのではないだろうか。

私も自信をもって「イエス」と言い切れない一人のコーチである。しかし、だからこそ日々バレーボールについて学ぶ時間を確保し、他のコーチやプレーヤーと議論する機会を意識的に持つようにしている。(それでも十分に学ぶ時間を確保できているとは言えない状況である)

そんな私ではあるが、素晴らしいバレーボール書籍に出会うことができたので、その学びを日々現場で思考錯誤・試行錯誤しているコーチたちに共有したいと思い、筆をとった次第である。

名著『バレーボール コーチングの科学』

私が今回の記事で取り上げたい書籍は『バレーボール コーチングの科学』である。

バレーボール コーチングの科学
バレーボール コーチングの科学

表紙の写真から見ても分かってもらえるだろうが、なかなかのビンテージ書籍である。著者はカール・マクガウン氏。アメリカバレーボール界の重鎮だ。本書は主にアメリカのバレーボール代表チームからの知見を中心に書かれているものである。いかにもアメリカらしいと感じるところも多い。

さて、本の概要説明もほとほどに本題に入っていきたいと思う。

今回のこの書籍の中でも特にコーチたちと共有したい内容は運動学習理論(モーター・ラーニング)についてである。なんとなく言葉自体は聞いたことがあり、勝手に知っているつもりになっていたが、本書を読み進めるにつれ、自分自身が完全にバカの壁(知っているつもりになって学ばない)に阻まれていたことを痛感した。

本記事では、書籍から学んだことにまとめつつも、私自身の解釈も存分に付け加えていきたいと思っている。その点については最初にご留意いただきたい。

運動学習理論(モーター・ラーニング)とは

それでは、まずは言葉の意味や定義について考えていきたいと思う。

本書によると、次のように説明されている。

運動学習(モーター・ラーニング)※motor learning:
科学的分野の一つであり、運動技術(motor skill)の学習に影響を及ぼす諸要因を研究する心理学の一領域である

う〜ん。難しい。いまいちピンとこない。

これが正直な感想ではないだろうか。では、早速ではあるが私の解釈を挟んでいきたい。最も平易な言葉で運動学習を表現するなら、新しい運動技術を習得するための学びのプロセスである。

眼前のプレーヤーが新しい運動技術を習得する学びのプロセスを最適化することはコーチにとって極めて重要な仕事の一つである。であるにもかからわず、この最適化するための知見について体系的に学び、それをコーチング現場に落とし込めているコーチは少ないのではないだろうか。

こうした日本のバレーボール界における課題(だと私が思っている)の解決に本記事が1ミリでも貢献できれば幸いである。

運動学習の最適化に必要な4つのプロセス

さて、ここからは運動学習理論について具体的な話をしていきたい。運動学習の最適化を目指すにあたってコーチは何を考え、何をすべきか。

考えるべきこと、やるべきことはたくさんあるが、全体のプロセスを眺めることから始めよう。大きく分けて4つのプロセスがあると本書には書かれている。

1. プレーヤーの学習目標を提示する
2. プレーヤーの運動プログラムを発達させる
3. プレーヤーの反応を向上させる
4. プレーヤーへ情報フィードバックを与える

それでは、順番に見ていこう。

【プロセス1】プレーヤーの学習目標を提示する

何をすべきなのかをどうやってプレーヤーに理解してもらうか。

これがまず第一ステップである。獲得すべき技術遂行能力が一体何なのかをコーチは明確に定義し、プレーヤーにとって分かりやすく提示しなければならない。

しかし、ここでコーチ達が陥りがちな過ちがある。それは多くを語りすぎるということだ。

ここで運動学習を考える際の重要なポイントを抑えておきたい。それは、学習者(プレーヤー)が情報処理できる量には限界があるという点である。

コーチのティーチングが極めて論理的で正確なものであったとしても、今まさに新しい技術獲得をしようと挑戦するプレーヤーたちにとって、情報処理しきれない大量の情報は運動学習の障害になり得るのだ。

そこで、コーチがまずはじめに取り組むべきは良い見本を見せること。デモンストレーションを行うのである。

ここで、人間が実際に使っている五感のそれぞれの使用頻度について考えてみてほしい。体感的にもわかるだろうが、視覚による情報処理量は際立っている。様々な研究がこれまで行われているが、どの研究でも視覚による情報処理が全体の約8割を超えていることが明らかにされている

運動学習の諸研究によると、記憶は映像(イメージ)という形式で、運動情報として保管されていると報告されているとのことだ。

コーチ自身が理想的なデモンストレーションを行うことができれば理想だが、それが難しい場合はチーム内でその技術を獲得している(またはしつつある)プレーヤーに依頼することもできるだろう。その場所に理想的なデモンストレーションができる人間がいない場合は、動画を用いるといった方法を取ることも可能ではあるだろう。

また、ここで本書中に示唆に富んだ一文が紹介されていたので共有しておこう。

イメージは言葉よりも優れ、見せるということは話すということよりも優れ、行き過ぎた教示は何もしないよりも悪い、ということである(THE INNER GAME OF TENNIS)

行き過ぎた教示は何もしないより悪い」という点について、私たちコーチは常に意識的であるべきだ。

しかし、良い見本を見せることさえできれば、学習目標を提示するという目的は十分達成できるだろうか。

それで十分であるはずがない。ここで必要となってくるのが、学習目標というゴールを目指す際のキー(手がかり)である。

先述の通り、行き過ぎた教示は害悪ですらあるわけだが、一切の無教示はただの放任でしかない。そこで、必要最低限の情報提供をする必要があるのだが、これを提供するにはコーチが事前に熟考し、準備する必要があるだろう。無駄な情報を削ぎ落とし、プレーヤーがゴールに辿り着くために本当に役立つ情報だけ残さなければならない。

このプロセスはコーチにとってなかなかタフな仕事になる。そこで、手がかりとして有効なものかどうかの判断をする際に以下4項目がとても役に立つ。

1. 濃縮され、必要十分な量の情報である
2. 簡潔で短い言葉である
3. その技術にとって重要な要素を喚起している
4. 記憶を強化することができる

これら4項目を満たす手がかりとなっているかどうかをチェックしながら、コーチは有効な手がかりを事前に準備しなければならない。そして、最終的に出揃った手がかりをどの順番で伝えていくのかまでも考える必要がある。

ここまで「良き見本を見せること」と「ゴールを目指す上での手がかりを見せること」という学習目標を提示するための手段について解説してきたが、コーチはこれらの手段をバランスよく使いこなし、有機的に結合させていくという重要な仕事をしなければならない。この重要な仕事こそ教授。すなわちティーチングなのである。

教授法については、一つの正解が存在するわけではない。なぜなら最適な教授法は眼前にいるプレーヤーの年齢や人生経験、プレー経験、技術レベルなど、様々な要因によって大きく変わってくるからである。しかし、その一方で運動学習の基本的概念に立ち返り、その原理・原則に基づいたコーチングさえ行うことができていれば、大きく誤ったティーチングに偏ってしまうようなことはないだろう。

コーチは、プレーヤーの置かれている状況を多角的に広い視野でよく観察しながら「良き見本を見せること」と「ゴールを目指す上での手がかりを見せること」の両方をうまく組み合わせて、学習目標の提示を効果的に行いたいものである。

【プロセス2】プレーヤーの運動プログラムを発達させる

次に、プレーヤーの運動プログラムの発達について考えていきたい。そこでまずは「運動プログラム」の意味するところについて説明する必要がある。

本書で、運動プログラムは動作をコントロールするある種の中枢の表象(心の中にある一つのイメージ)であると説明されている。

う〜ん。またも難しい表現だ。難解である。

そこでもう少し私なりの解釈を入れできるだけ平易に説明するならば、あるプレー動作を映像化したものとなる。もう少し説明を加えられるとすれば、プレーヤーの運動プログラムを発達させることというのは、新たに獲得したい技術を遂行している自分の姿をより具体的に、そしてより正確にイメージできるようにすることだと言い換えることができると考えている。

つまり、運動プログラム自体が曖昧であったり、間違っていたりすれば、当然そのプレーヤーが新しい技術遂行能力を獲得するのは困難になるだろうということだ。

だからこそ、コーチはプレーヤーの運動プログラムの発達を促すという大きな仕事をしなければならない。では、どのようにその大きな仕事を遂行すればいいのか。

重要となる5つのコンセプト

ここで極めて重要なコンセプトが5つある。この5つのコンセプトをインストールして、プレーヤーの運動プログラムを発達させるために練習計画を行ったり、コーチングをしていくことが求められる。

1. 特異性と一般性
2. 練習からゲームへの転移
3. 全習法と分習法
4. 記憶の状態(独立性)
5. ランダム練習と反復(型はめ)練習

それではそれぞれのコンセプトについて一つずつ見ていこう。

特異性と一般性

結論から言ってしまうと「その」スポーツのそれぞれの技術には特異性というものが内在しているということである。

スポーツといっても多種多様である。球技に絞って挙げてみても、サッカーに野球、バスケ、バレーボール…とキリがない。そして、さらにそれぞれのスポーツに毎に特異性を伴った技術というものが存在する。

例えば、バレーボールのアンダー・ハンド・パス(レシーブ)という技術の特異性には目を見張るものがある。

不安定な2本の前腕部分にボールをヒットさせて、思い通りにボールをコントロールする。

なんと特殊な技術だろうか。

そして、もし仮にあなたがアンダー・ハンダ・パスの技術を完璧にマスターとしたとして、サッカー競技においてうまくドリブルすることができるだろうか?

誰が答えても答えは同じ。

できるはずがない。

繰り返しにはなるが、「その」スポーツの「その」技術には特異性というものが内在している。このことをコーチはしっかりと理解しておく必要がある。

練習からゲームへの転移

ここでの話はシンプルだ。練習の中で行われる運動学習が、ゲーム中の技術遂行能力(技能)に転移しているかどうかという視点である。

チーム・球技型のスポーツにおいて、日本人の技術力は世界から高い評価を受けることが多いが世界では勝てないという状況がある。そして、その原因を日本人のフィジカル面に求めることが多いというのが現状ではないだろうか。

しかし、この原因追求は実は間違っているのではないだろうかと密かに私は思っている。実は練習からゲームへの転移がうまくいっていないという点に本当の原因があるのではないか。

練習中の技術遂行能力の高さは天下逸品(練習を上手く行う能力はピカイチ)だが、ゲーム中となるとその能力はうまく機能しないといった感じだ。

練習だけで通用する技術遂行能力のはもはや1ミリの価値もない。

では、ゲーム中の技術遂行能力を獲得するためにはどんな練習をすればいいのかという問いがここで生まれる。

この問いに対する答えは次の通りだ。

練習の中に可能な限り、ゲームと同じ環境や状況を再現する。

ネットを挟む。インとアウトのジャッジがある。笛が吹かれる。ボールが落ちれば得点が入る…。ゲーム中では当たり前の環境やルールといったものが練習になるといかに削がれてしまっているのか…。

コーチはこうした観点から、普段から練習を計画し振り返り、そして自問自答を繰り返さなければならないのだ。

この練習は本当に試合に転移するのだろうか。最大限、試合のエッセンスを取り入れているだろうか。と。

全習法と分習法

日本人の思考スタイルは分習法「寄り」であるように思う。

分習法とは学習する運動技術を一つずつ分けて学習する方法

これに対し、全習法とはまったく逆のアプローチである。

全習法とは学習する運動技術を分解せずにひとまとめに学習する方法

そして、この2つの練習法について考える際、ぜひとも知っておいていただき概念として構造主義要素還元主義がある。

構造主義とは、一つの要素が他のすべての要素との関係において初めて相互依存的に決定されるものとして与えられ、構造を構成する要素は原則として構造を離れた独立性を持たないものと考えるものである。これに対して要素還元主義というのは、一つのものを構成している要素をバラバラに分解して、それを再度組み合わせよう(還元しよう)とする考え方である。

さて、話を再び全習法と分習法に戻そう。つまりはこうだ。

全習法はいわゆる構造主義的アプローチであり、分習法は要素還元主義的アプローチであると言えば分かっていただけるだろうか。

では、どちらの学習法が運動学習において有効だろうか。

答えは言うまでもなく全習法である。

学習記憶の状況設定(感情・環境etc)

運動学習時の状況(学習時に抱いていた感情や環境設定などの学習者を取り囲むあらゆるもの)が実際にパフォーマンスを遂行する際(つまり、ゲーム中)の状況により合致している場合、パフォーマンスを遂行する能力はより高まるということが言われている。

このことはある例を出すとピンと来るだろう。

練習中だと簡単にサーブを入れることができるが、ゲーム中に1点を争う場面となると緊張してミスしてしまうという経験をしたこと(または目撃したこと)はないだろうか。

これはまさに学習時の状況設定が、ゲームの状況とにかけ離れていることによってゲーム中にパフォーマンスを発揮することができない典型例である。

ランダム練習とブロックド(反復)練習

最後に、練習方法に対する考えに触れていく。

ランダム練習とはゲームの予測不可能な変化が起こり得る練習のことを指す。

これに対して、ブロックド練習とは型にはまった決められた動作を繰り返し行う練習を指す。

どちらの練習法が運動学習を効果的に進めるにあたって有効だろう。

どちらがプレーヤーの運動プログラムを発達させていく上で有効だろう

ここまで「特異性と一般性」「練習からゲームへの転移」「全習法と分習法」「学習記憶の状況設定」といった様々な運動学習について考える上でのコンセプトについて考えてきた。

ランダム練習とブロックド練習、どちらが有効だと言えるだろうか。

ここまでの話を理解してさえくれれば、ランダム練習がより有効であるとの答えを出すことは容易であると思う。

3つのコーチング課題

ここからは、コーチング活動における3つの主な課題についてさらに踏み込んで考えていきたい。先述した5つのコンセプトをインストールした上で、これから述べる3つの課題について熟考してもらうことができればコーチングの質を格段に高めることができるに違いない。

1. 漸進性(PROGRESSION)の調整
2. ドリル・デザイン
3. プレー評価
漸進性(PROGRESSION)の調整

漸進性とはなんとも聞き慣れない言葉だと感じた人も多いだろう。そもそも読み方が難しい。。。

最初に「漸進性」が意味するところをまずは確認しよう。

ここで漸進性が意味するものとは技術や体力の向上を考慮しながら、次第に技術レベルや運動の強度・量など、練習の内容を発展させていくことである。

漸進性の意味を共有したところで次に考えるべきはその「調整」という言葉についてである。

プレーヤーの状況(技術レベル・体力・知力等)を十分に踏まえた上で、技術レベルや運動の強度や質、練習の内容を「どの程度」発展させていくのか調整していくことがコーチには求められる。

そして、漸進性の調整を行う際には先述した5つのコンセプトを思い出していただきたい。「特異性の原則」や「ゲームへの転移の法則」、そして「全習法の有効性」などを思い出してもらえれば、技術を構成する要素を細かく分解してドリルを行ったり、あまりにもスモール・ステップを踏んでしまったりすることは、プレーヤーの成長にとって効果的ではないということが分かるだろう。しかし、その一方で漸進性を無視した練習を行って良いということは決してあり得ない。

本書では漸進性の調整をする際の原則として2点に絞って説明している。次の通りである。大変重要なことを指摘しているので、ここはしっかりと押さえておくべきだろう。

1. ある程度の段階を踏んでいくべきではあるが、段階の数はある程度限定されるべきである。
2. 段階設定をする際には、できる限りバレーボール・ゲームの発展段階を考慮して、それと同じになるようにするべきである。
ドリル・デザイン

ドリル・デザインをしていくにあたり、コーチが最も意識的であるべきことの一つがゲーム・ライク(まるでゲームのようである)であるかどうかという点である。

もちろん、すべてのドリルがゲーム・ライクであることは難しいだろうが、こうした意識を常に持っておくことは重要だ。

では、練習を構成するそれぞれのドリルを単調で退屈なドリルに留まらせることなく、まるでゲームをやっているようなドリルにデザインするにはどのような視点を持つ必要があるだろうか。

本書には下記の5つの視点を持って、ドリル・デザインをすることが重要だと書かれている。

1. コート上のプレーヤーのポジショニングは実際ゲームで起こり得るものか
2. コート上のプレーヤーの動きは実際ゲーム中に起こり得るものか
3. ネットに対しての位置や姿勢は実際ゲーム中に起こり得るものか
4. 活動内容(例:サーブ・レシーブ・セットetc)の順番はゲーム中に起こるプレーの順番を再現しているか
5. プレーヤーが反応するための刺激は実際ゲーム中に起こるそれを再現しているか
6. プレー中のボールは実際ゲーム中に起こり得るボール・デッドと同じように自然な形で終了しているか
プレー評価

唐突な質問をするが、ぜひ答えを考えてみてほしい。

良いプレーヤーであるか否かはどのように評価することができるだろうか

これは、なかなか難しい問いである。少し保留にしよう。では、次の2つの質問だとどうだろうか。

1.  練習中のフリースパイクを見れば、そのプレーヤーのアタック能力を測れるだろうか

2.  ペッパー練習を見れば、そのプレーヤーのディフェンス能力を測れるだろうか

おそらくこれらの質問であれば、まだ答えやすいかもしれない。ここまで読んでいただけた方であれば「ノー」の答えを出してくれたことだろうと思う。

結論から言うと、私たちコーチがプレーヤーの能力を評価する術は、そのプレーヤーがゲームの中でプレーする姿を見る以外に他ない

仮に一つ一つのプレーを切り取って技術テストを行い、プレーを評価しようとしてもそこに意味はない。

強烈なフリースパイクが打てるからといって、それはゲーム中に得点する能力があることの証明にはならない。

では、プレーヤーの能力をできるだけ客観的に評価する方法は何だろうか。

真っ先に思いつくのは、アタック効果率やレセプション返球率、その他諸々の客観的な数値データを用いて評価する方法であろう。

ただ、私個人としては、こうした一般的になりつつあるアナリストによる評価指標以外にも実はプレーヤーのプレー遂行能力を測る上で削ぐことのできないものがたくさんあるのではないかと思っている。

具体的に真っ先に思いつくのがオフ・ザ・ボール時におけるプレーである。状況判断した内容をチーム全体に伝達するプレー(いわゆる声出し)であったり、適切なポジショニングをとるプレー(ポジショナル・プレー)であったり、チームを鼓舞しモチベーションをあげるようなプレー(いわゆる声出し)であったり。

現状、これらは客観的に数値で表される評価指標になっておらず、曖昧に評価されがちで見過ごされがちだが、これらのプレーを何らかの方法で可視化し、評価できるようになれば、プレーヤーに対する評価というものが180° 変わるといったことも今後起こり得るのかもしれない。そんな未来がやってくることを個人的には楽しみにしている。

【プロセス3】プレーヤーの反応を向上させる

運動学習の4つのプロセスの第3ステージまでやってきた。またも聴き慣れない表現に困惑してしまいそうだが、まずは下記の部分をもう少しクリアにしていくことから始めよう。

プレーヤーの反応を向上させるとは言い換えると、練習の中でいかにプレーヤー(学習者)に成功体験を多く積ませることができるかということである。

コーチは次の3つの視点を持って練習を計画していくことで、プレーヤーにポジティブな成功体験を多く積ませることができる。

1. 各ドリルの実施時間の設定
2. どの程度の負荷(身体的・精神的)をかけるか
3. メンタル・プラクティスの導入

各ドリルの実施時間の設定

スポーツをしていた方であれば、経験があるかもしれない。

一種類のドリルを30分〜40分続けているとだんだんと集中力がなくなって、いつこのドリルは終わるのだろうかと時計ばかりを眺めていたという経験はないだろうか。

私もこうした経験をしたことがある。

ドリル実施時間の設定を考える際のコンセプトとして集中法と分散法の2つがある

集中法とは練習の中で休憩を入れることなく連続的に練習する方法である。

これに対して、分散法とは練習の中に休憩を入れながら断続的に練習する方法である。

集中法と分散法のどちらが、プレーヤーに成功体験を多く積んでもらうことができるだろうか。

より集中し、効率的に学習でき、より多くの高いパフォーマンスを発揮することができるのはどちらの方法だろうか。

こうしたことは90年間以上多くの研究者が研究してきたようだが、最近の研究結果としては分散法のほうが効果的であるということが示唆されているようだ。

また、人間の集中力は15分周期でやってくるという研究もある。以下、参考にしてみてほしい。

集中力の維持と長期的な学習効果につながる方法(東京大学・池谷裕二教授の見解)

朝日新聞 DIGITAL

運動学習において、分散法が効果的であることは私の経験とも一致しているように感じる。

長時間同じドリルを継続して行うことのメリットはあまりないということが、研究結果から導き出されているのだ。

どの程度の負荷(身体的・精神的)をかけるか

さて、次にプレーヤーへの負荷のかけ方という点について考えていきたい。

ここで考えるべきは、練習の中でプレーヤーが最も成功体験を多く積むことができるようにするためには「どのように」また「どの程度」の負荷をかければよいのかということである。

結論から言えば、多くの研究から導き出されているのは過度な身体的疲労という状態は学習プロセスの進行を鈍化させ、かつパフォーマンスも下げることになるということである。

確かにこう言われてみれば当たり前の話という気もする。

しかし、多くの現場では過度な身体的な疲労が溜まった状態で練習が行われているということが起こっているように感じる。身体的な疲労状態を「敢えて」創り出し練習をすることが日常的に行われていることが多いように思う。

恒常的にこのような負荷をかけて練習をしていると、効率的・効果的な運動学習も期待できないし、パフォーマンスを長期的に見て高めることも難しいだろう。さらに、もっと悪いことには怪我を引き起こし可能性も高めてしまうだろう。

また、精神的な負荷についてはどうだろうか。

この点について、本書では具体的に言及されてはいないが、身体的負荷と同様に過度な負荷をかけてしまうと学習にもパフォーマンスにもネガティブな影響を与えてしまうことが予測される。ただ、精神的な疲労感というのは身体的な疲労感と比較してコーチの目には映りにくいはずだ。常日頃からプレーヤーとコミュニケーションをとり、プレーヤーの状況をよく観察する習慣を身につけておくことが重要になってくる。

メンタル・プラクティスの導入

さて、メンタル・プラクティスと聞いてどんなことを想像するだろうか。

多くの人はイメージ・トレーニングを想像するのではないだろうか。それもメンタル・プラクティスの一つである。

さて、ここで考えるべきことを再度確認していきたい。練習の中でプレーヤーが最も成功体験を多く積むことができるようにするためには、どのようなメンタル・プラクティスが必要になってくるだろうか。

多くの研究によると効果的なメンタル・プラクティスの実践は運動学習を促進することができると示されている。では、より効果的なメンタル・プラクティスを実践する上で必要とされる条件はなんだろう。本書では6つ紹介されている。

1. 身体的な練習と組み合わされて行われる
2. パフォーマンスが遂行される環境である体育館や観衆が視覚化されている
3. メンタル的な面(ゲーム中の緊張感など)も含めて技術の遂行がなされている
4. メンタル的にも良いイメージと結びついて技術が習得されている
5. プレーヤーのレベルにあった状況で遂行されている
6. プレーヤーがプレー動作の感覚をイメージすることに集中している

少し表現が抽象的で難しい印象を受けるものが多いかもしれないが、それぞれの項目に共通していることは運動学習のプロセスの中で、フィジカル面とメンタル面がきちんと紐付けされていることだと言えるのではないだろうか。

つまり、メンタル・プラクティスは独立的な行為ではなくフィジカル・プラクティスとセットで行われるべき行為であるということだ。

【プロセス4】プレーヤーへ情報フィードバックを与える

やっとここまできた。運動学習を最適化するための4プロセスの最後である。それでは行ってみよう。

まずは情報フィードバックが果たすところの目的を確認したい

情報フィードバックには以下の2つの大きな目的があるということをまずは理解していただきたい。

1. プレーヤー自身にプレーを評価してもらうこと
2. プレーヤー自身の学習に対するモチベーションを高めてもらうこと

これらの目的を念頭におき、どのように情報フィードバックをしていけばよいかを考えていこう。

まず、情報フィードバックという行為がコーチの仕事の非常に重要かつ、多くの部分を担っているということを認識しなければならない。この質の良し悪しがプレーヤーの運動学習の質に与える影響は大きいからだ。

早速、本書の中で紹介されている情報フィードバックを行う上での3原則を整理していきたい。

1. プレーヤーの情報処理能力に対して情報負荷になっていないこと
2. プレーの結果に関する知識プレー・プロセスに関する知識があり、特に後者に関する知識提供が重要である。
3. コーチ自身が「その」プレーに関して経験的に熟達している、体感的にどのようにプレーするかを知っていることは質の高い情報フィードバックに寄与する。

上記、3原則の中でも特に私がコーチたちにとって重要だと思っているのが、プレー・プロセスに関する知識提供が重要だという点である。

プレーの結果に関する情報フィードバックの難易度はそれほど高くはない。それは誰の目で観ても明らかであるからだ。そのため、この種の情報フィードバックは度々コーチング現場で目にする。反対に、プレー・プロセスに関する知識が提供されている場面に遭遇することは相対的には少ないように感じる。プレーの結果をフィードバックするだけのコーチは、プレーヤーのモチベーションを下げてしまうことさえある。

そこで、良いプレー結果を生むためには、プレーが起こるまでのプロセス(プレー・プロセス)の質をどれだけ高めることができるのかという視点を持つことがコーチにとって重要である。良い結果を生むにはプレー・プロセスを良きものにするという発想が必要だ。

プレー・プロセスを観る眼の解像度をどこまで高めることができるのか、眼に「観えたもの」をどうやってプレーヤーに伝えることができるのかが、コーチの腕の見せ所となるのである。

最後に情報フィードバックの具体的な方法論を紹介しよう。本書では以下の3つに分けて解説されている。それぞれ詳しくみていきたいと思う。

情報フィードバックの具体的方法論

1. 各ドリルに対する目標設定
2. 競争原理の導入
3. 反応するための機会導入
各ドリルに対する目標設定

各ドリルにおける目標設定自体が情報フィードバックになり、その質が情報フィードバックの良し悪しを決めるということだ。

生真面目なコーチほど、練習を計画通り、そして時間通りに進めたいという意識が強い傾向にあるように思う。

しかし、こうした意識があまり強く働いてしまうと、各ドリルを計画通り、時間通りに進めることが目的となってしまい、それぞれのドリルでプレーヤーにどんな反応をしてほしいのか(どんな成功体験を積んでほしいのか)という最も重要な点が蔑ろにされてしまうことがある。

そこで、必要になってくるのが各ドリルにおける目標設定である。

これを設定する際、コーチには各ドリルの目的を明確に言語化し、プレーヤーが自身で成功したかどうかを測れるような、具体的かつ理解が容易な指標を示すことが求められるのである。

そうすれば、プレーヤーはコーチからの長い説教や詳しい解説を受けなくても、自動的に情報フィードバックをうけることができるのである。

複数のプレーヤーに対して一人のコーチが個別に情報フィードバックをするには限界がある。だからこそドリルにおける目標設定というのは重要なのである。

競争原理の導入

競争原理を練習の中に取り入れることは、先述の目標設定と同様に情報フィードバックの自動化に大きく寄与する

練習中に競争原理を入れる具体的な例を挙げると、得点をつけたドリルを設計したり(例:2チームに分かれてのサーブ・ゲーム)、ゲームライク要素の強い勝敗がはっきりと分かるドリル設計をしたり(例:ウォッシュ・ゲーム)することが挙げられるだろう。

こうしたチーム内での競い合いがチーム全体の成長を加速化し、チームの成長に繋がるということは想像できるだろう。

ただ気を付けるべきこととして、チーム内に競争原理を過剰に入れすぎると、プレーヤーにとってチームという安全地帯が単なる競争の場となってしまう。これは非常にまずい事態である。

心理的に安心できる場所のない状況での過度な競争はチャレンジする気持ちを奪ってしまうことにもなりかねない

何事も「〜しずぎ」はよくないのだ。

反応するための機会導入

プレーヤーに情報フィードバックをするには、プレーヤー自身が自ら反応するための機会を持つこと、つまりプレーヤー自身がたくさんの試行錯誤をすることが重要である。

この試行錯誤の質と量を向上させるための方法が紹介されている。

1. 技術ウォームアップの導入
2. 個別指導の機会
3. 小グループ制の導入
4. ウォッシュ・ゲーム等のゲーム・ライク・ドリルの導入

それでは順番に見ていこう。

技術ウォームアップの導入

ウォーミングアップという主目的を設定しつつ、同時に技術の習得もしてしまおうといった二兎追う者は二兎ともに得る的発想である。これが技術ウォーミングアップの導入である。

コートの周りをただ走るだけのウォーミングアップであれば、そこにボール・コントロールに繋がるような技術的要素を付け加えたほうが効率的だろう

練習時間が無限に与えられているチームなどこの世に存在しないはずだ。

だからこそ、二兎を追って二兎を得るという思考が必要なのである。

個別指導の機会

情報フィードバックの中でコーチとプレーヤーの信頼関係次第で、その有効性に天と地ほどの差が出てしまうものが個別指導である。

個別指導では、それぞれのプレーヤーが抱える固有の課題についてピンポイントでフィードバックすることが可能である。この点については他の情報フィードバックとは一線を画す。

また、プレーヤーとの信頼関係さえきちんと結ばれていれば、個別指導の機会はプレーヤーのモチベーションを高めることにも極めて有効である。

小グループ制の導入

小グループを構成してゲームすることの主目的は状況判断の機会を増やし、たくさんボールに触れるといったところにある。

例えば、ゲームライク練習をするとして、6on6で実施するよりも3on3で実施するほうが直接的な状況判断に関わる回数も多くなり、何よりたくさんボールに触る機会を持つことができる。

チームメンバーが多いときなどは極めて有効な考え方であると言えるので、メンバーの多いチームや時間的制約が厳しいチームのコーチは積極的に導入を進めるべきである。

ウォッシュ・ゲーム等のゲーム・ライク・ドリルの導入

バレーボールはイン・プレーとアウト・オブ・プレーが交互に繰り返される点取りゲームである。それゆえにバレーボール・ゲームを練習の中にそのまま取り入れる(例えば、練習試合をする)と、当然アウト・オブ・プレーの時間が練習の多くの時間を占めることになる。

もちろんアウト・オブ・プレーの重要性を決して軽視してはいけないが、時間的制約が常にある中でプレーヤーに多くの思考錯誤と試行錯誤をしてもらうためには、ウォッシュ・ゲームのように意図的にアウト・オブ・プレー時間を減少させ、イン・プレー時間を増加させるようなドリルを導入することは有効である。

科学的根拠に基づいたコーチングを実践するためのシンプルな答え

最後に、本記事で一番最初にした質問をもう一度させていただきたい。

いつでも科学的な知見に基づいて練習を計画・実践し、プレーヤーへ問いかけ、フィードバックを行えているか?

本記事を読み終えたところで、上記の質問を見るとどう感じるだろうか。感じ方に変化は生まれただろうか。

記事を読み始めるときとは違う感じ方をしているのであれば、ここまで長い文章を時間をかけて読んでいただいた意味があったのではないかと思っている。

科学的な根拠に基づいたコーチングを常に100%実践することは極めて難しいのかもしれない。

しかし、どんなコーチも学び続け、そこを目指すことはできるはずである。私もコーチである限りはそこを目指し続ける所存である。

最後に、私の大好きな言葉でこの記事を締めくくりたいと思う。

学ぶことをやめたら教えることをやめなければならない

ロジェ・ルメール(元サッカー・フランス代表監督)
タイトルとURLをコピーしました