アウト・オブ・プレーの重要性について考える

バレーボールは準備のスポーツである。

バレーボールの特性について語る時に、このように表現することもできるのではないかと思っています。本記事ではこの意味を考えていく過程で、バレーボールの特性とその面白さを感じてもらえればと思います。

イン・プレーとアウト・オブ・プレー

バレーボールにはイン・プレーとアウト・オブ・プレーという考え方があります(もちろん他のスポーツにおいてもあります)。バレーボールの特性について考えていくために、まずこの考え方を知ってもらう必要があります。早速、イン・プレーとアウト・オブ・プレーのそれぞれを定義しておきましょう。

イン・プレー

インプレーとはおおざっぱに言うと、主審のプレー開始のホイッスルが鳴ってから次にホイッスルが鳴るまでの時間を指します。さらに厳密に説明するならば、サーバーがボールをヒットしてから、そのラリーが終了する(ボールデッド)までの時間を指します。つまり、プレーヤーがボールの動きに最大限集中している時間のことを指しています。そして、直接的にはこのイン・プレー中のラリーの行方が勝敗に影響を与えています。

アウト・オブ・プレー

これに対し、アウト・オブ・プレーとはざっくり言うとイン・プレー以外の時間のこと。具体的には、サーブ間やポジションローテーションの時間がこれにあたり、ラリーが終わってから次のラリーが始まるまでの時間のことを指しています。この時間中に得点が入ることはないので、見た目上は試合の勝ち負けに影響を与えていないように見えるかもしれません。

このように、バレーボールのゲーム(試合)は、イン・プレーとアウト・オブ・プレーによって構成された物語であるとも言えます。それでは、それぞれの時間的な割合というのはどのようになっているのでしょうか。統計データを用いて、詳しく見ていきたいと思います。

驚くべきイン・プレーの占める割合

イン・プレーとアウト・オブ・プレーのそれぞれが占める割合について統計的にデータを算出したものがあるので、そちらを引用しながら、考えを深めていきたいと思います。

上記で紹介している書籍バレーボールの科学の52ページを参考に、ここからは記載しています。

国立スポーツ科学センター所属の宮脇氏が中心となり、2015年W杯の上位7チーム同士の対戦全21試合を対象にして試合中のプレー時間についてまとめています。

こちらの統計データを簡単にまとめると下記の通りです。

3セットの場合(各平均値)

:1試合あたりの時間(1時間28分51秒)

:1セットあたりの時間(28分53秒)

:1セットあたりのイン・プレー時間(4分59秒98)

:1ラリーあたりの時間(8.12秒)

:ラリーとラリーの間(15.4秒)

バレーボールの科学(P52より引用)

まず、ここまで詳細に統計データをとり調査をされた宮脇氏らに尊敬の念を抱かずにはいられません。こうしてデータをとることで今まで見えていなかった、もしくは見ようとしていなかった重要なモノが見えてくるということがあります。まさにバレーボールを科学するとはこういうことなのかもしれません。

そして、私がこのデータから最も衝撃を受けたのがイン・プレー時間の短さです。1セットの中で実際にラリーをしている時間を合計すると5分満たないということにショックを受けました。1セット約30分と考えることができるので、単純計算すると実際のイン・プレー時間(ラリーをしている時間)は試合全体の約16%であるということが分かります。

プレーヤー経験者であれば、1セットをもぎ取ることがどれだけ大変なのかという点については理解できるかと思います。カテゴリーによってラリー時間に差があるということを鑑みても、直接的に得点に絡んでいるイン・プレーの時間が、試合全体で見るとこれほどまでに低い割合であるということに強いショックを受けたというのが、この統計データを初めて見たときの正直な感想です。

アウト・オブ・プレーは試合に影響を与えていないのか

しかし、冷静になって考えてみると果たして試合のたった16%しか占めていないイン・プレー時間が試合の勝敗をすべて決定づけてしまっているのだろうか?という疑問が残ります。果たして残りの84%のアウト・オブ・プレーは重要ではないのだろうか?という問いが出てきました。

上図を見てください。試合中のイン・プレー時間とアウト・オブ・プレーの出現するイメージを可視化したものです。

こうして見てみると、イン・プレー時間は細切れ的に出現しており、イン・プレー時間が終了すると、それよりも長いアウト・オブ・プレー(平均すると約2倍長い)時間がやってきます。試合ではこのプロセスを繰り返していきます。

こうして、それぞれの時間を可視化してみると、アウト・オブ・プレーが試合結果に実は大きな影響を与えているのだと考えることができるのではないでしょうか。

アウト・オブ・プレー時間の使い方が試合結果を左右する

ここでは、アウト・オブ・プレー時間中に、試合に勝つチーム(プレーヤー)の中では、一体どんなことが起こっているのかを考えてみたいと思います。

試合に勝つチームは意識的にせよ、無意識的にせよ、アウト・オブ・プレーの時間を有効に活用することによって「勝利」という結果を手繰り寄せていると思います。それでは、具体的にどのようにアウト・オブ・プレー時間を活用しているのかを見ていきましょう。

分析と対策

勝つチーム(プレーヤー)はアウト・オブ・プレーの時間に相手チーム、自チーム、そして自分自身に至るまで、その時々の状況を常に分析しています。

相手チームの誰がエースなのか?今日、一番当たっているアタッカーは誰なのか?セッターはどのアタッカーを一番信用してセットしているのか?・・・

自チームの誰のコンディションが良いのか?逆に誰のコンディションが悪くフォローが必要なのか?・・・

今日の自分のコンディションはどうか?今の自分の感情はどんな状態なのか?・・・

一つ一つ挙げ出すとキリはありませんが、勝てるチーム(プレーヤー)は、常に試合に勝つためにその時々分析し続けています。そして、その分析結果から「今」自分が試合に勝つためにできる行動の選択肢を見つけ出し、実行します。その行動とは、アウト・オブ・プレーの時間帯に実行されるものであったり、場合によってはイン・プレー中に実行されるものであったりもします。

素晴らしいプレーヤーであればあるほど、刻一刻と目まぐるしく変化する試合の流れに翻弄されることなく、冷静な目で試合の状況を適宜分析し、その都度最適な行動を迅速にとることができるのです。

コミュニケーション

試合に勝つチーム(プレーヤー)は、アウト・オブ・プレーの時間を最大限活用してチームメイト同士で積極的にコミュニケーションを取っているように思います。そのコミュニケーションの手段や目的は様々です。

喜びを爆発させることでチームを勇気付けたり、ミスしたプレーヤーが次のプレーに向かえるように声かけやスキンシップをしたり、次のイン・プレーにおける作戦をチームメイト同士で共有するしたり。試合の状況に応じてチームが勝つために求められるコミュニケーションを行なっています。

アウト・オブ・プレー時間に行われるコミュニケーションが直接的な得点に結びつくことはありません。しかし、ここでの有効なコミュニケーションがイン・プレー中の高いパフォーマンスを引き出すことに貢献すると考えることはできます。

感情マネジメント

先ほどの紹介したイメージ図を思い出してもらえれば分かりますが、イン・プレー時間は細切れで、1試合の中で何度も何度もやってきます。一回のイン・プレーが終わる毎に、得点がどちらかのチームに入り、1ラリーの中での「勝敗」が都度決まります。ある意味「1試合の中に何度も何度も勝ち負けを繰り返している」とも言えます。それゆえにプレーヤーは感情をマネジメントすることが極めて重要になります。自己感情がコントロールできなくなるということは、イン・プレー中のパフォーマンスを一気に下げることにつながります。

例えば、大事な場面で自分のアタックが相手ブロッカーにシャットアウトされたあとのアウト・オブ・プレー。感情的にかなり揺れ動く状況だと思います。しかし、そこでいかにして感情をマネジメントし、次のイン・プレーに入っていけるのかが試合の行方を左右するということに反対する人はいないでしょう。

アウト・オブ・プレーの時間を有効活用する能力

本記事では、イン・プレーとアウト・オブ・プレーの比較をしながら、特にアウト・オブ・プレーの重要性について考えてきました。

試合で勝つためには、どうしても直接的に得点に絡むイン・プレーに目が向けられる傾向があるように思います。もちろん試合中、得点して試合に勝つためには、イン・プレー中のパフォーマンスを高めるためにレシーブやアタック、ブロック、サーブといった技術を高めることが重要です。

しかし、アウト・オブ・プレー時間の中で、プレーヤーの頭の中や心の中は激しく動いていて、そこでの目には見えない「動き」や、その時間の使い方が試合の勝敗に極めて大きな影響を与えていることは紛れもない事実です。

試合の8割を超える時間がアウト・オブ・プレーであること。この時間を有効に活用するための能力をいかにして身につけていくのかということを、コーチもプレーヤーも真剣に考えていかなければならないと思います。

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