最近、「ハッ」とさせられる記事に出会ったのでここにご紹介したい。
勝てるのが「すごく怖かった」…あの時、JTに何が起こっていた? 名将パルシンの「トータルディフェンス」と幻のシンクロ攻撃
Number Web バレーボールPress
上記の記事の中で最もインスピレーションを受けたのは、トヨタ車体現監督の印東さんの言葉である。下記に一部抜粋する。
「中国は中国語の用語を使って女子代表が世界1位になりました。ブラジル代表はポルトガル語で世界のトップに立ちました。私はセリンジャー監督によってバレーボールに関わる物事に名前があることを知りましたが、英語の用語がすべてではありません。『バレーペディア改訂版』はセリンジャー監督の著書『セリンジャーのパワーバレーボール』を参考に執筆されていますから当然、セリンジャー監督の使った用語が中心となりますが、同じように中国には中国の、ヨーロッパにはヨーロッパの用語があるのではないかと考えています」
バレー用語定義の重要性
「中国は中国語の用語を使って女子代表が世界1位になりました。ブラジル代表はポルトガル語で世界のトップに立ちました。」
彼のインタビューで話された上記箇所を読んだときには大袈裟かもしれませんが鳥肌が立った。
なぜなら、国の文化や言語の違いによってバレーボールの捉え方が全くもって変わってしまうというのだということを強く感じたからである。
バレーボール用語がどのように定義され、どのように運用されるのかということが、その国のバレーボールの世界観に多大な影響を与えているのである。
私は日本人で日本語のバレーボール用語を使ってバレーボールを学んできたわけであるが、これが意味することは、日本人のバレーボールの世界観しか知らないということである。イタリアの、ブラジルの、フランスのバレーボールの世界観を私は知らないのである。各国のバレーボール用語を学ぶことは、私自身のバレーボールの世界観は拡張していくことに大きく寄与するに違いないだろう。
さて、話が大きくなってきてしまった。次の章からは自国、日本のバレーボール用語に目を向けて話を進めていきたいと思う。
アタックとスパイクの併用
2018年7月にバレーボール協会が発表した統一用語を見てみると色々と気になることがある。下記記事をぜひとも参照いただきたい。
現代のバレーボール用語が分からない人へ送る教科書
その一つが「アタック」と「スパイク」という用語である。

「スキル」の分類としてしてアタックとスパイクを併用すると記載されている。
しかし、「アタック」と「スパイク」を併用する、つまり同義と捉えてしまってもよいのだろうか。
「アタック」はプレーでありスキルではない。「アタック」とは相手コートにボールを返球するプレー全般を指す。例えば「アンダー・ハンド・パス」で返球した場合もそれは「アタック」である。
これに対して「スパイク」とは「アタック」プレーをするための一つの手段である。助走をし、ジャンプして、ボールを相手コートに強く打ちつけるという一つのプレー手段を指している。
少々まどろっこしいのかもしれないが、「スパイク」という手段で「アタック」プレーをしているというのが正しいと言える。
もっというと「スパイク」とは手段で「アタック(攻撃)」は目的である。
「スパイク」と「アタック」を併用することは手段と目的を混合することと同義とも言える。
用語を「並列化」せずに「階層化」して捉える
では、「アタック」と「スパイク」を併用するといった事態がなぜ起こっているのだろう。
この質問に対する、私の答え(仮説)は次の通りである。
バレーボール・ゲームの階層構造を元に、用語の整理が十分になされていないから。
用語をただ並列的に箇条書きにするだけでは、用語の関係性や階層(レイヤー)が不透明になってしまうだろう。
しかし、バレーボール・ゲームの階層構造を元に、一つ一つの用語の関係性やどの階層にそれらの用語が位置しているのかを整理していくことができれば、バレーボールというスポーツをより一層深く理解することの大きな手助けとなるだろう。そうなれば、バレーボールをプレーする人もそれを観る人も、みんながもっとバレーボールを本質的なレベルで楽しめるようになるのではないだろうか。
ただただ、多くのバレーボール用語を知っていればいいのではなく、その用語が本質的に何を意味するのかをきちんと理解し、それぞれの用語がバレーボール・ゲームの階層構造の中で整理されていることが重要であると思う。
参考記事:バレーボールのゲーム構造についての考察
バレー用語の多様性は言語の多様性に比例する
ここまでは日本のバレーボール用語に焦点を当ててきたが、世界に目を向けてみよう。
誰もがご存じの通り、バレーボールは世界の至る所でプレーされる世界的メジャースポーツである。
当然、各国や地域によって使われている言語は多種多様で、それぞれの言語で定義されたバレーボール用語というのが世界中に存在しているわけである。
考えただけでゾクゾクしてこないだろうか!
僕の貧しい想像力をもってしても分かることは、バレーボールの用語の一つを取り上げてみても「その」用語に対する定義や解釈は、国や地域によって千差万別だということである。例えば、日本でも「ハイキュー!!」人気によって「テンポ」という概念が広く普及したが、国や地域を跨いでみればその定義や解釈は一つや二つで済まないだろう。
こうした用語の定義・解釈の違いが各国や地域におけるバレーボールに対する考え方や取り組み、ゲーム・モデルといったところにまで大きな影響を与えているということは間違いないだろう。
バレーボール用語が与える破壊力
「たかが用語」
決してそう思わないでほしい。人間が思考するために必要なものは言葉、すなわち言語である。そして、バレーボールを思考するには、必ずや「バレーボール用語」という道具が必要だ。
道具の精度が悪かったり、適当なものであれば、質のよい思考はできないのである(よい仕事はできない)
コメント
EzpUWtjrZxqHiVB