チームスポーツにおいての「声出し」は高度な技術である

コーチがプレーヤーに向けて「声を出せっ!」と叫ぶ光景を見たことがない人はいないのではないでしょうか。

私もご多分に漏れず、コーチングをスタートしたときには、そのような声をプレーヤーに日々かけていたように思います(激しく反省しています)。

しかし、今思うと「声を出せっ!」というのは「強いアタックを決めろっ!」「レシーブをなんとかしてあげろっ!」と言っているのと同じくらい抽象的で無茶なコーチングであり、プレーヤーからすると大変困惑する声かけなのではないかと思うのです。

まさか「強いアタックを決めろっ!」「レシーブをなんとかしてあげろっ!」とコーチングしているコーチはさすがにいないでしょう。しかし「声出し」に関するコーチングになると途端に、具体性のない無謀なコーチングになる傾向にあるように思うのです。

これは「声出し」の目的が十分に理解されないまま、ただ “なんとなく重要だ” という認識に留まっていることや、“自分自身が声を出すように厳しく指導を受けてきたから声を出して然るべきだ” と思っていることが原因にあると思います。

「声出し」が極めて高度な技術であるということがきちんと認識されていないからこうした事態が起こっているのだと思うのです。

本記事では特にチームスポーツ(バレーボールが中心)における「声出し」について考察していきたいと思います。

声を出すことはそもそも重要なのか

そもそも「声出し」はスポーツをする上で重要なのでしょうか?

声を出すこと自体が体力を消耗する行為でもあり「声出し」にメリットがないのであればそもそも「声出し」の必要性すらなくなってきてしまいます。

私自身、プレーヤーとしてバレーボールをする際は、比較的大きな声を出してプレーするタイプだと思います。これまで何の疑いもなく、声を出すことを非常に重要視してきましたし、その効果もなんとなく実感としては持ってはいます。

しかし、今唐突に誰かに

スポーツをするときに、声を出す意味ってあるの?

と聞かれると「声出し」の重要性について、ちゃんと心から納得してもらえるような説明ができないのではないか?という想いがあります。そんな想いもあって本記事を執筆することを決心しました。次項からは、「声出し」の重要性を理解してもらうために、その目的と効果について大きく3つに分けて整理していきたいと思います。

「声出し」の3つの目的とその効果

チームスポーツにおける「声出し」には、大きく分けて3つの目的があると考えています。

円滑なコミュニケーション

1つ目は、円滑なコミュニケーションを図るための「声出し」です。「声出し」という表現だと少しニュアンスが違うようにも感じます。どちらかというと「会話する(しゃべる)」という表現のほうがしっくりくるかもしれません。

ゲーム中は、刻一刻と状況が変化していきます。どれだけチーム練習を重ねてきたとしても、練習とは常に違った状況がゲーム中には生まれます。そのため、常にチームメイトと即時のコミュニケーションをとり、状況に応じたプレーをして最高のパフォーマンスを出すことがプレーヤーには求められます。

チームメイトとの円滑なコミュニケーションなしに、自分自身のパフォーマンスもチームとしてのパフォーマンスも高めることは決してできません。

そこで、ゲーム中にチームメイトと常に会話する(しゃべる)ことが重要になってきます。

バレーボールを例に挙げてみましょう。例えば、イン・プレー中であれば「OK!」「任せた!」「アウト!」といった即座の、瞬間的な「声出し」が必要になってきます。この「声出し」のタイミングは一瞬でも遅ければ、その声は無意味になってしまったり、最悪の場合チームメイトを混乱させるだけで終わってまうことがあります。

また、これに対してアウト・オブ・プレー中は、イン・プレー中と比べると比較的時間的余裕が生まれます。そのため、もう少し複雑な会話をすることが可能となります。例えばレセプションの局面での「次のサーブレシーブは、少し右にずらしたポジショニングにしよう。」といったものであったり、試合終盤の大事な局面での「ブロッカーのポジションをエース寄りにしよう。」といったものであったりするのかもしれません。

しかし、上記で挙げたような高度な会話(しゃべり)ができるようになるまでにはかなり多くの経験や学習機会が必要となってきます。そのため、普段の練習からゲームを想定したゲームライク練習などに積極的に取り入むことが必要となってきます。そして、こうした練習を行い際はコーチの指示は極力控え、プレーヤーたちが主体となって会話をする環境つくりが大切になってくると言えます。

瞬時のパフォーマンスを高める

2つ目は、瞬時のパフォーマンスを向上させるための「声出し」です。チームスポーツに限らず、個人スポーツにおいても、その効果が最も分かりやすいのがこの「声出し」の特徴です。

元ハンマー投げ選手の室伏広治さんが投てき時に「ンガーッ!」と叫んだり、元卓球選手の福原愛さんがポイントを取った後に「サー」と叫んだりするシーンは多くの方にとってもお馴染みかもしれません。

こうした言葉自体に意味がないような「ンガーッ!」や「サー」といった言葉は、スポーツオノマトペと呼ばれ、スポーツシーンの瞬時のパフォーマンスを高めるために大きな働きをしています。

スポーツオノマトペとは

オノマトペとは「擬音語・擬態語」を意味するフランス語源の言葉で、特にスポーツシーンで使用されるモノを指しています。

まずは実際に、どんな状況やタイミングでスポーツオノマトペが使われているのかを動画を参照してみてください。

元ハンマー投げ選手の室伏広治さんの投てきシーン

元卓球選手の福原愛さんのプレーシーン

では、スポーツオノマトペをうまく活用することによって、どのような効果を期待することができるのでしょうか。

パワー・スピード向上

シャウティング(叫ぶ)効果というものが期待できます。大きな声を瞬間的に出す(瞬間的に叫ぶ)ことで、神経系における運動制御の抑制レベルをはずし、筋肉の限界値まで力を発揮させる効果が得られます。先に紹介したハンマー投てき時に、室伏広治さんが瞬間的に叫んでいるのがそれです。

バレーボール選手のアタック時やテニス選手のサービス時。瞬間的に大きな声を出す場面は散見されますが、これらも同様の効果を生んでいると考えられます。

リズム・タイミング

先に紹介した福原愛さんの動画をご覧いただければ分かりますが、ラリーを制した後に出す「サー」という声がこれに当たります。彼女はスマッシュの瞬間「サー」と言いません。その瞬間はどちらかと言うと、上記で紹介したようなパワー・スピードの向上を目的とした瞬間的に叫ぶような声を出しています。

「サー」という声が出現するタイミングを注意深く観察して見ると、必ずラリーを制した直後になっていることが分かります。この声を出すことによって自身のプレーリズム・タイミングを測っていると言えるでしょう。

リラックス・モチベーション促進

上記で紹介した「サー」というスポーツオノマトペですが、リラックス効果も兼ねているようです。この「サー」という言葉はいわば、彼女の「声のルーティン」とも言えます。ラリーを制したら「サー」という声を発する。こうした声のルーティンんを重ねることで、試合展開が刻々と変化していく中でも常にリラックスできる状況をつくっていると言えるでしょう。

そして、『ラリーを制する→「サー」→ラリーを制する→「サー」・・・』を繰り返すことで、「サー」という声を出すこと自体がラリーを制すること、つまり勝ちのイメージに結びいくことにより、勝利へのモチベーションを促進してくれる効果もあります。

メンタルのコントロール

3つ目は、メンタルコントロールのための「声出し」です。自分の発する声で自分自身、ひいてはチームメイトのモチベーションも高めることが目的です。

プラシーボ効果

プラシーボ効果とは、主に医療分野で使われる言葉ですが日本語だと「偽薬効果」と訳されることもあります。例えば、腹痛を訴える人に医者が「腹痛に効く薬だ」といって飴を与えたとします。飴に痛みを緩和する成分が入っていないとしても、実際に腹痛が治ることがあるという現象が起こり得ます。こうした「効果が期待できない薬でも症状を抑えることができる現象」のことをプラシーブ効果といいます。

そして、この効果はスポーツ分野に応用することができます。具体的には、自分自身に対する声出し(セルフトーク)によって、その効果を引き出すことができます。

例えば、試合直前であれば「今日の俺、絶好調!」と声に出して言ってみたり、試合中であれば「次のアタックは絶対に決まる!」「次、絶対にエースのアタックをレシーブする!」とあえて声に出して宣言してみたりすることが挙げられます。

こうしたセルフトークによって、自ら良い意味で洗脳する(自己暗示する)ことができます。これはメンタルコントロールの技術とも言えるでしょう。

エンカレッジメント(勇気付け)効果

また、自分自身に対する声出し(セルフトーク)だけでなく、チームメイトをエンカレッジする(勇気付ける)声出しもチームスポーツにおいては極めて重要です。

ミスをして落ち込んでいる、調子が上がってきていないチームメイトに対して「次の一本いこう!」という声をかけたり。

大事な局面で相手ブロッカーにシャットアウトされた自チームのエースに「ブロックカバーに入っているから思い切りアタックを打って!」といった言葉がけをしたり。

また、素晴らしいプレーをしたチームメイトに「ありがとう!」「最高のプレーだ!」といった感謝や賞賛の声をかけたり。

こうした声かけをするができれば、チームとしてのパフォーマンスをさらに高めることができるでしょう。

緊張の軽減

試合本番になると、いつも緊張してしまって通常のプレーができないといったプレーヤーは一定数存在していると思います。そして、そういったプレーヤーに限って声が出ないということがあるように思います。「声が出ない→緊張する→パフォーマンスが下がる」にはどうも因果関係があるようです。

試合本番になると緊張していつものプレーができないというプレーヤーは試合前、もしくは試合開始直前に大きな声を出すことで緊張状態から脱することができます。その理由は、人間の脳の働きに関係します。

人間の脳はそれほど複雑な動きができないようで、大きな声を出すとそのことに意識がとられて、緊張すること自体を忘れてしまうというのです。いつも緊張して本番で力を出せないといった人は試してみる価値がありそうです。

さらに、相手チームからすると「大きな声=自信の表れ」として映ります。大きな声を出すことで、試合前から精神的に優位に立つことにも繋がります。

「声出し」は単なるやる気指数ではなく、高度な技術である

ここまで「声出し」の目的とその効果について整理してきました。一言で「声出し」と言ってしまえばとても簡単なことのように思えます。それこそ「やる気さえあれば、声出しくらいできるっしょ!」っと言ってしまいたくなりそうです。

確かに猿真似的に決まったフレーズを録音されたラジオを再生するかのごとく、リピートする(声出しする)ことは強制されれば、誰でもできるのかもしれません。

しかし「声出し」の目的や効果を考えると、そうした状況で生み出される声はただの体力の消耗、かつノイズでしかありません。あくまで目的をもった「声出し」であることが大切です。

はじめにも書きましたが、コーチが「声を出せっ!」という指導をしても、プレーヤーは一体どんな声をどのタイミングで出せばいいのか分かりません。チームスポーツをプレーする中で「声出し」することは想像以上に高度な技術であるという認識をコーチもプレーヤーもまずは持つことが重要です。

短絡的に「声が出ていないからプレーヤーにやる気がない。」といった捉え方をしてしまうのではなく「声がでないのは、声出しの目的が分かっていないんだ。もしくはその技術が身についていないんだ。だから、声出しの目的を明確にし、その技術を日々磨いていこう。」と決意することができればいいのではないかと思います。

当たり前にアタックやレシーブ、サーブを練習する(または、コーチングする)のと同じように声出しの技術についても日々トレーニングする(または、コーチングする)姿勢を私たちは持たなければなりません。

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