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ライフ・ワークはバレーボール探求。本サイトでは、バレーボールに関する情報を発信しています。また、バレーボール・アカデミーの経営・コーチングをしています。

【資格】国際バレーボール連盟(FIVB)公認コーチ Level2/日本スポーツ協会 コーチ4/バルシューレジャパンC級指導者/中高教諭1種免許(英語)

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スパイク・スイング3分類に関する考察

バレーボールに関わるすべての人を魅了するプレー。それはやはりアタックではないだろうか。

そして、そのアタック・プレーに最も頻繁に使われているだろうスキルがスパイクだ。

スパイク・スキルを構成する要素はアプローチ(助走)・ジャンプ・状況判断・スイング・着地といくつかあるが、本記事では『スパイク・スイング』に焦点を当て、その3分類について考察を深めていきたいと思う。

スパイク・スイング3分類

スパイク・スイングには大きく分けて3つに分類できる。下記の3つである。

1.  サーキュラー・アーム・スイング(circular arm swing)
2. ボウ・アンド・アロー・アーム・スイング(bow and arrow swing)
3. ストレート・アーム・スイング(straight arm swing)

順にそれぞれの特徴について解説していきたい。

まず、サーキュラー・アーム・スイング(以下、サーキュラー・アーム)だが、肘の軌道が円(circle)を描くように見えるフォームであることからこのようにネーミングされている。特長としてテイクバックの完成が早く、短時間で大きなパワーを生むことができるという点が挙げられる。主に体幹の「回旋」「側屈」の動作によってパワーが生み出される。

次に、ボウ・アンド・アロー・アーム・スイング(以下、ボウ・アンド・アロー)だが、弓矢(bow and arrow)を引く動作を連想させるようなフォームであることからこのようにネーミングされている。サーキュラー・アーム・スイングと比較するとテイクバックの完成まで時間がかかり、大きなパワーを生むためには準備に時間がかかる。主に体幹の「回旋」「前後屈」の動作によってパワーが生み出される。

最後に、ストレート・アーム・スイング(以下、ストレート・アーム)であるが、腕を真っ直ぐ(straight)に振り下ろすようにしてヒットすることからこのようにネーミングされている。テイクバックが小さく、コンパクトなスイングとなるためパワーは生まれにくい傾向にある。主に体幹の「後屈」「前屈」の動作が起こることによってパワーが生み出される。

体幹の「回旋」と「側屈」と「前後屈」

ここまで、スパイク・スイングの3分類の概要について述べた。ここからは各々のスイング動作原理について書いていくのだが、それぞれのスイング動作原理への理解を深めるためにまずは体幹の動きについて知っておく必要がある。下記の図を見てほしい。

体幹の動きには大きく分けて3つの動きがある。「回旋」「側屈」「前・後屈」である。

「回旋」とは、体軸を左右へ回転させることを指しており、左への回転を左回旋、右への回転を右回旋と呼ぶ。

「側屈」とは、体軸を左右の側方へ曲げることを指しており、左側へ曲げることを左側屈、右側へ曲げることを右側屈と呼ぶ。

「前・後屈」とは、体軸を前後へ曲げることを指している。前方へ曲げることを前屈、後方へ曲げることを後屈という。

ゼロ・ポジション

さらに動作原理の話に入る前に、「ゼロ・ポジション」についても簡単に触れておきたい。

「ゼロ・ポジション」とは、バレーボールのスパイクに関して言えば、ボール・ヒットするのに理想的なポジションのことを指す。また、名前の由来や具体的なポジションの説明としては下記の通りだ。また、下記図も併せて参照いただきたい。

・スパイク肩関節周りにあるインナーマッスルの筋緊張がゼロになる(肩関節が安定している)
・上腕骨に外旋や内旋といったひねりのストレスがゼロになるポイントである(最も脱力している)
・上腕骨(じょうわんこつ)と肩甲棘(けんこうきょく)の角度がゼロ(0)度になる

次の項からは、各スイングの動作原理について連続写真とともに見ていきたい。

サーキュラー・アーム・スイング(circular arm swing)

1. 体幹の右方向への回旋運動を起点に、右手のテイク・バックが行われる。
2. 体幹の右方向への側屈運動により、右手のテイク・バック動作がさらに大きくなり、右肘が下がる。左手は落下してくるボールに向かい、上方へ突き出している状態。この際、両肩と右肘はほぼ一直線上に位置する。
3. テイク・バックの完成からボールヒットに向かうプロセスに入る。体幹の左方向への回旋・側屈運動がスタート。これらの運動に連動し、右手はスイング動作に入る(体幹の動きに腕が振られる)この際、右肘はやや前方上方へ移動。
4. 体幹の回旋・側屈運動に連動しスイング動作は加速する。この際、右肘はさらに前方上方へ移動。体幹の左方向への側屈運動によって左肩は下がり、右肩は上がっていく(打点が高くなる)。
5. スイング動作の加速度最大、かつゼロ・ポジションでボールヒット。
6. ボールヒット後のフォロースロー。ヒット後、腕は脱力状態。

ボウ・アンド・アロー・アーム・スイング(bow and arrow arm swing)

1-2. 両腕を前方向に向かって高く振り上げる(この動作によってテイクバックの完成は遅れる)。
3. 振り上げた右腕をちょうど「弓矢を引くようにして」後方に引いてテイクバックを完成させる(当テイクバックでは側屈運動は起こりにくい。その代わりに後屈運動が付加されることがある)。
4. テイク・バック動作完成後、ボールヒットに向かうプロセスに入る。今度は、体幹の左方向への回旋運動と(前屈運動)がスタートする。これらの運動に連動し、右手はスイング動作に入る。
5. 体幹の回旋運動と(前屈運動)に連動してスイング動作は加速。この際、右肘はさらに前方へ移動。スイング動作の加速度が最大かつ最高打点で、最もパワー発揮が可能なゼロ・ポジションでボールヒット。
6. ボールヒット後のフォロースロー。ヒット後、腕は脱力状態である。

ストレート・アーム・スイング(straight arm swing)

1. 両腕を前方向に向かって高く振り上げる(この動作によりテイクバックの完成は遅れる)。
2. 体幹の後屈運動と並行して、右手のテイク・バックを行う(体幹の回旋動作が伴わないため、テイクバック動作は小さくなる)
3-6. 後屈運動の反作用としての前屈運動と並行して、右手をボールに対してまっすぐに振り下ろす。

各スイングの特徴

各スイングの特徴を表にしてまとめたものが下図である。いくつかの視点から各スイングを相対的に比較検討している。

テイクバック完成のタイミングと大きさ】

力強いスパイクを打てるかどうかはテイクバックにかかっているといっても過言ではない。

テイクバックとは腕を振る(実際は体幹の動きに「腕が振られる」のが理想である)準備と言えるのだが、その完成速度についてはサーキュラー・アームとストレート・アームに軍配があがる。

それではまず、サーキュラー・アームについて。

この点についてはボウ・アンド・アローとの違いを考えるのがよい。この両者の大きな違いはバックスイングからの前腕の振り上げ動作である。サーキュラー・アームのバックスイングからの前腕の振り上げ動作の特徴は、肩下までは両腕ともに振り上げられるが、肩上へ差し掛かる位置から利き手と非利き手が分岐する。非利き手はそのまま振り上げられるが、利き手はテイクバックの動作へ移行していく。そのため、テイクバックの完成を早めることが可能となる。また、体幹の回旋運動を主に使うスイングのため、テイクバックもそれに伴って自然と大きくなる。

これに対して、ボウ・アンド・アローはバックスイングからの前腕の振り上げは両腕ともに肩上まで揃って高い位置へ向かっていく。そして、上がり切ったとこから非利き手と利き手は分岐する。そして、名前の通り弓矢を引くようにして利き手はテイクバックを開始する。そのため、テイクバックの完成は遅くなってしまう。また、体幹の回旋運動を使うスイングのため、テイクバックもそれに伴って自然と大きくなる。ただ、セットされたボールに対してアプローチが遅れてしまうといったようなケースでは、テイクバックに時間がかかるためスイング自体が小さくなってしまうといったことも起こる。

最後に、ストレート・アームについて。ボウ・アンド・アロー同様、バックスイングからの前腕の振り上げは両腕ともに肩上まで揃って高い位置へ向かっていくため、この時点ではサーキュラー・アームと比較してテイクバックの完成に遅れが生じる。しかし、体幹の回旋運動がほとんど起こらずテイクバック動作自体が小さくなるため、テイクバック完成のタイミングは比較的早くなる。

【ボール・インパクト

力強いスパイクを打つスキルがあれば得点能力は高まる。そのため、ボール・インパクトという観点はスパイク・スキルを捉える上で非常に重要になる。ボール・インパクトはテイクバックの大きさに比例するといってもよい。よって、サーキュラー・アーム、ボウ・アンド・アローについては強いボール・インパクトが期待できる。そして、ストレート・アームについてはボール・インパクトは弱くなる。

主な体幹動作】

サーキュラー・アームの主たる体幹動作は回旋・側屈運動である。これら2つの動きはそれぞれに起こっている運動というよりは互いに連鎖的・連続的に起こっている運動と言える。また少し乱暴な言い方になってしまうが、回旋運動は主にスイングを加速させ、側屈運動はヒット・ポジションを高くするとも言える。

次にボウ・アンド・アローの主たる体幹動作は回旋・前後屈である。サーキュラー・アーム同様に回旋運動が起こるが、側屈運動は起こりづらい。それは、ボウ・アンド・アローの特徴である弓矢をひくようにしてテイクバックを完成させるモーションの影響が大きい。このモーションだと利き腕の肘を比較的高く上げることになり、側屈運動が起こりづらくなるのだ。さらに肘を高く上げると回旋運動が阻害されてしまい、パワーを生み出しづらい状況になる。こうした状況になるとパワーを付加するため後屈運動からの前屈運動が起こってくる。

最後にストレート・アームについてだが、主たる体幹動作は前後屈である。上記2つのスイングのように回旋運動は起こらない。そのためにスイングに加速をつけるために使える体幹動作は後屈運動からの前屈運動に限られてしまう。

障害】

特定の動作を繰り返して行うと障害が起こるということはある種避けられないことだが、無理のない合理的な動作を身につけることによって障害が起こりにくい状態をつくることは可能である。特にスパイク・スイングのスキルを使ってプレーする場面は非常に多い。

合理的な動作について考える際に一番に着目すべきは体幹動作である。回旋運動は慣性モーメント(物体が持っている、運動を持続しようとする力)が小さく、省エネルギーでパワーを生むことが可能である。つまり合理的な動きなのである。これに対して前後屈運動は慣性モーメントが大きく、パワーを生むために大きなエネルギーを必要とする。つまり、非合理的な動きであり、何度も繰り返して繰り返しているうちに身体に大きな負荷をかけてしまう。障害を引き起こすのだ。

こうして考えてみると障害が起こりにくいスイングが何かということは自明となる。サーキュラー・アームである

回旋と側屈を主たる体幹動作としており、前後屈の動作は起こりにくいからである。また次に障害が起こりにくいスイングはボウ・アンド・アローと言えるだろう。回旋を主たる体幹動作としている点でサーキュラー・アームと同じであるが、先述した通り、テイクバック動作の特徴から強くヒットしようとした際には前後屈の動作を付加することがあるため腰に障害を抱えるといったことが起こりやすい。また、回旋運動をうまく使えず、肩から前腕に意識を置いたようなスイングになってしまうと肩や肘といった部位を痛めてしまうことも起こるだろう。最後に、ストレート・アームについてだが結論から言うと最も障害が起こりやすいスイングだと言わざるを得ない。前後屈を主たる体幹動作とし、テイクバックも小さくなってしまうため、どうしても腰や肩、肘とあらゆる部位に負荷をかけてしまう結果となる。

着地傾向】

着地についても言及していきたい。なぜなら、着地方法が選手生命を脅かすような重大な怪我を引き起こしたり、慢性的な障害を生む可能性があるからだ。

まず、サーキュラー・アームだが、両足着地、利き足優位傾向にある。ヒット前の回旋・側屈運動によって非利き手で前方かつ高いヒット・ポジションに向かう。そして、そこから逆の体幹動作によって利き手が身体の前方かつ高いヒット・ポジションへ向かっていく。そして、ボール・ヒットが完了した後も、体幹の捻り動作は継続し、利き手と同様に利き足も身体の前方へと向かいながら、両足がほぼ同時のタイミング、場合によっては利き足優位で着地する。

次に、ボウ・アンド・アローだが、両足着地、非利き足優位傾向にある。ヒット前の回旋・後屈運動によって非利き手がヒット・ポジションに向かう。しかし、サーキュラー・アームと違い側屈運動よりも後屈運動が起こりやすいため、非利き手によるヒット・ポジションの設定がどうしても少し後方(被り気味)になる傾向にある。そして、そこから逆の体幹動作が起こるのだが、やはり利き手でボール・ヒットするポジションもサーキュラー・アームと比較して相対的に被り気味になってしまう傾向にある。これにより逆の体幹の捻り動作は阻害され、回旋運動が途中で止まってしまう。これによって、利き手と利き足が身体前方へ向かうことなく着地に至ることとなり、両足がほぼ同時のタイミング、場合によっては非利き足優位で着地する。

最後にストレート・アームだが、両足での着地である。これまでの説明からも分かるように回旋や側屈運動がほとんど伴わないために体幹が捻れるといったことは起こりにくい。そのために両足での着地となるだろう。

最も合理的なスパイク・スイングとは

一通り、スパイク・スイング3分類について解説してきたが、ここからは筆者の個人的な考えなども織り交ぜながら書いていくこととする。

スパイク・スイングの3分類については様々な書籍で紹介されており、バレーボール関係者の中でもある程度浸透しているように思える。しかし、これら3つのスパイク・スイングのうちでどれが最も合理的なのか。つまり、どのスパイク・スイングを推奨するのかといった点について言及された書籍はほとんど見たことがないし、議論をしても多くの結論は「そのプレーヤーに合ったスパイク・スイングがあるから優劣をつけることはできない」というものがほとんどである。確かに言っていることはその通りだとは思う。しかし、それぞれのスイング動作を突き詰めていくと最も合理的なスイングがどれかというのははっきりしてくるのではないだろうか。

サーキュラー・アーム・スイングが最も合理的であるという結論

私はこれまでスパイク・スイングについてずっと長らく考え続けてきた。多くの人たちとスパイク・スイングに関して議論をし色んな考えも聞き、日本に存在するバレーボール関連の書籍のほとんどを読んできたように思う。こうして個人的に学びを積み重ねてきた今時点での結論は、サーキュラー・アーム・スイングが最も合理的なスイングだということになる。ここまで記述してきたそれぞれのスイングの特徴と照らし合わせながら下記の主な理由を見てほしい。シンプルに箇条書きにしている。

・十分なテイクバックを短時間で完成させることが可能である(セットのブレに対して柔軟に対応できる)
・省エネルギーで大きなパワーを生み出すことが可能である(身体的負荷が小さく障害が起こりにくい)
・着地時の怪我リスクを下げることができる(スパイク時の着地ミスによる重大な怪我の多くが非利き足での着地である)

1つのプレーを見てスイングの分類をすること自体に意味はない

スパイク・スイングについての議論でよくあるのが、「○○選手はボウ・アンド・アローだ。」「いや○○選手はサーキュラー・アームだ。」といったものである。

しかし、こうした議論は不毛であるように思う。どのプレーヤーのスイングも各スイング分類のグラデーションの中にある。また、セットされるボールのポジションや高さ、アプローチの距離やその猶予時間などは常に流動的で、これらの外部環境に合わせてスパイクを打っているのがリアルである。あるスパイクでは「サーキュラー・アーム・スイング的」であり、また別のスパイクでは「ボウ・アンド・アロー的」であるといったこともリアルとして起こっているのだろうと思う。1プレーだけをみて、あのプレーヤーは○○スイングだと言うのは繰り返すようだが不毛である。

スパイクというスキル構造を解き明かす一つの鍵

1つのプレーだけを見て、そのプレーヤーのスイングを分類することに対しては意味はないと思うが、スパイク・スイングの分類とそれぞれの動作原理について深く理解しておくことはコーチにとってもプレーヤーにとっても極めて重要である。

なぜなら、ここでの深い理解はスパイクという複雑なスキルの構造を解き明かしてくれる一つの鍵となるからである。最初にも書いたが、スパイク・スイングとはスパイクというスキルを構成する要素の一つに過ぎない。それにも関わらずこれほどまでにも奥深いのだから最高に面白い。

バレーボールは知れば知るほど、最高にたまらなく面白い。

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